2025/05/26 Column 狩野川の鮎が“10年ぶりの豊漁”──それは自然からのサインかもしれない


昨日の夕飯時、妻との何気ない会話の中で「狩野川の鮎、今年はよく釣れてるらしいよ」と教えてもらいました。
Yahoo!ニュースで「10年ぶりの豊漁傾向」と報じられていたそうです。
“10年ぶりの豊漁”──ただの当たり年というより、もっと大きな自然の変化が背後にあるのでは?
そう思い立ち、ここ最近の海や気候の動きを自分なりに整理してみました。


■ 黒潮の大蛇行、ついに終息か?
狩野川の鮎が...という話、そして今年に入っての海の様子からもしや?と思ったのが、黒潮の大蛇行が終わるのでは?
と、いうこと。調べてみたら、ほんとに“黒潮の大蛇行が収まりつつある”という気象庁の発表(2024年5月9日)。
2017年8月から続いていた黒潮の蛇行が、2024年秋〜2025年春にかけてようやく終息する兆しを見せているのです。
その期間、なんと約7年9ヶ月!
この黒潮の「大蛇行」とは、通常ルートを外れて黒潮が大きく湾曲して流れる現象のこと。
沿岸の海水温、塩分、栄養バランスなどに大きな影響を及ぼします。
たとえば大蛇行中は──
- 沿岸の水温が下がりにくい
- 栄養塩が薄まり、海藻が育ちにくくなる
- 稚魚や小魚の生育環境が乱れる
- 漁獲量の低迷が続く
といった影響が全国の海で観察されていました。

■ 鮎の豊漁は「川と海の環境バランスが戻った証拠」?
鮎は、川で生まれ、海で育ち、再び川に戻ってくる“回遊魚”です。
鮎の一生(ざっくり)
- 秋:川で産卵
- 冬〜早春:稚魚が海へ下る
- 春〜夏:海で成長(プランクトンを食べて)
- 初夏:若鮎が川を遡上
今年の狩野川では、
- 川の下流域に餌が多い(藻類や微生物)
- 海でも成長に適した餌環境が整っている
のではないでしょうか。
つまり、「鮎が多い=海と川のバランスが戻りつつある」サインなのではないかと感じるのです。
■ 冬にちゃんと冷えた!──黒潮収束がもたらした正常な季節サイクル
黒潮の大蛇行が終息しつつある今年、久々に「ちゃんと冬らしい冷え込み」がありました。
それが以下のような好影響を生んでいると考えられます。
- 沿岸の水温がしっかり下がる
- 海藻類が例年通り遊走子(胞子)を放出
- 海藻が春に向けて成長し、餌場として復活
- 小魚や鮎の稚魚たちが育ちやすくなる
■ 天草とマナマコが語る「海の回復」
僕自身が“海が元に戻ってきたかも?”と感じたのが、天草の豊作とマナマコの出現。
▼マナマコの出現は「海水温14℃以下」が条件
- 活発に活動するのは13〜14℃以下
- 冬に冷えなければ活動しない(夏眠モードのまま)
ここ数年、冬でも水温が高く「マナマコがいない年」が続いていましたが、今年は久しぶりに獲れたとの話も。
これは、冬の水温が久々に適正に下がった証拠です。
▼天草も水温が15〜16℃以下でないと遊走子を放出しない
こちらも、今年は水温の下がり方がよく、しっかり遊走子(胞子)を放出→春の成長がスムーズだった印象です。



■ 山の雪も、今年は豊富だった!
海だけじゃありません。今年は山の雪も多かった。
春になって大量の雪解け水が、フルボ酸や腐植酸といった有機物を川から海へと運び、
それが植物プランクトンの増殖→動物プランクトン→小魚や稚魚の餌、という“命の連鎖”を後押ししています。
つまり、「育ちやすい海」が戻ってきたということ。
■ 豊漁は偶然じゃない。「自然の回復」が重なった結果
今回の鮎の豊漁は、決して一過性の「当たり年」ではなく──
- 黒潮の大蛇行の終息
- 冬の冷え込み
- 海藻の正常なサイクル
- 山からの栄養豊富な水
…これら**自然の“本来の姿”**が重なって生まれた結果だと考えています。
まさに、「山・川・海」が本来のリズムを取り戻しつつあるサイン。


■ おわりに:自然のサインに耳を傾けたいー川と海、自然のリズムが少しずつ戻ってきている
狩野川の鮎が久しぶりに豊漁だというニュースをきっかけに、
もしかして海も元の状態に戻りつつあるのでは?と、そんな思いを馳せてみました。
川の鮎だけでなく、天草やナマコといった海の恵みも、ここ最近また少しずつ戻ってきています。
山・川・海──自然の流れ全体が、ゆっくりと本来のリズムを取り戻しているようにも感じます。
“水が戻れば命が戻る”、“自然のリズムが整えば生物たちが息を吹き返す”
自然がまるで「少しずつ元に戻っているよ」と教えてくれているような、そんなサインがあちこちに現れ始めている今。
この流れが続くように。
僕たちも、できることを考えながら──
ダイバーとして、そして漁業に携わる者として、
日々の海との関わりの中で、海や川、そして自然とのつながりをじっくり味わっていきたいと思います。